③血管拍動性耳鳴の多くは鍼灸適応
鍼灸で有効となる公算が高いのは血管(拍動)性耳鳴である。耳の近くの動脈周辺の筋肉が硬くなることによって、その動脈の脈動が、振動として鼓膜に伝わってしまうものである。拍動性の耳鳴りの大半はこれで、自然に治癒することが多いが、動脈血管に構造的な問題があれば逆に難治になる。
2.難聴・耳鳴の鍼灸治療に対する共通認識
①パルス治療は耳鳴を悪化させる。
②耳介周囲への長時間置針(20~40分以上)が効果的。
血流改善の目的には30~40分程度の置針(刺絡は別)が必要だと考えている。
置針20分を過ぎた頃から、効果が現れやすい。
③症状出現から短ければ(発症2年以内)、治療可能である。
最も効果的なのは、発症2週間以内である。
④針による聴治療では、高音部に比べ、中低音部が改善されやすい。
⑤初期の治療持続効果は、3~5日であることが多く、週2回以上の治療が望ましい。
⑥聴力がある程度改善したあとの治療の継続では、治療回数と比例して聴力改善をみる例は、あまりない。
⑦治療効果の目安
20~40dB:軽度難聴→完治が期待できる
40~60dB:中程度難聴→かなりのレベルまで良くなることが期待できる
60~80dB:高度難聴→耳鳴りや耳の違和感が残るかも知れないが、日常生活は可能なレベルまでは
期待できる。
80dB~ :超高度難聴→ほとんど聴こえなかったものが、雑音として聴こえるようになったり、聴こえはするが言葉としては分かりづらいなどの後遺症が残るかもしれない
3.血流改善を意図した治療の信憑性
耳鳴・難聴の鍼灸治療の方針として、「内耳血流増加させる」とする研究報告は多い。確かに内耳血流の悪に由来する耳鳴は、迷路性耳鳴(突発性難聴・メニエール病・前庭神経炎など)でみられる。
内耳への酸素や栄養補給をするのは、脳底動脈から枝分かれした一対の内耳動脈で、椎骨脳底動脈の下流に位置するので、椎骨動脈循環不全でも内耳虚血が起こる。内耳動脈が正常なことで、初めて内耳前庭機能を保持できる。
椎骨動脈血流の左右差は、結局は左右の前庭系領域の血流量の左右差となり、前庭神経系の興奮性の左右差が回転性めまいを生むらしい。この原因は、可逆的な頚部交感神経系の活動の左右差によるものと考えられている。
内耳部分の細胞の壊死などでは、いくら血行を改善させても症状は良くならないだろうが、交感神経緊張による血管の収縮である可能性もある。そのため実際にも星状神経節ブロックが試みられてる(無効なことが多い)。
内耳動脈虚血に対する鍼灸治療は、風池からの深刺により椎骨動脈を刺激したり、一般的に項部の筋緊張を緩める鍼灸が行われる。それで治療効果が得られたという報告もあるが、その治効機序として、本当に内耳血流を増加させたことによるものかは疑問が残るところである。
内耳血流に変化を与えることで難聴・耳鳴り等の症状が改善するものは、全体の2~3割程度だという