慢性閉塞性動脈硬化症(ASO) 1)原因 加齢性病変(50才以上)で、動脈硬化の部分症状。動脈造影では、下肢の比較的 太い動脈の、虫食い像がみられる。上肢におこることはまれ。危険因子はタバコ。 本症があれば、冠状動脈疾患や脳血管障害の生ずる頻度が高くなる。 2)フォンティン分類と現代医学的治療 血行障害による筋の阻血の程度により、重症度がきまる。 第1度:しびれ、冷感→週一回の硬膜外ブロック 第2度:間欠性跛行→持続硬膜外ブロックと強制歩行訓練 歩行時は安静時と比べて、10~20倍の血液を必要とする。 第3度:安静時痛(とくに夜間就寝中) (入院治療) 第4度:阻血性潰瘍・壊死。人工血管バイパス術、下肢切断術 強制歩行訓練:間欠性跛行症状が出る距離の8割程度を一定のスピードで歩かせ、筋肉の発達 を促す。週3回以上、1回休息時間を除き、30分間以上の歩行が必要。 下肢の動脈走行 腹大動脈→ 総腸骨動脈内腸骨動脈 外腸骨動脈→大腿動脈→膝窩動脈前脛骨動脈→足背動脈 後脛骨動脈→足底動脈 腓骨動脈 4)鍼灸治療 閉塞性動脈硬化症は、不可逆的な器質的疾患であるが、ASO実験動物による基礎研究に よれば、針治療によりVEGF(血管新生誘導因子)が産生されるという。VEGFが産正されれば、 血管が新生されて側副路が発達することにより、虚血症状が改善される可能性がある。動脈拍 動部に針灸する根拠は不明。鍼灸は、フォンティン分類のⅠ~Ⅱの者に有効とされる。 ①動脈拍動部への刺針治療 a.衝門拍動(+)、太衝拍動(-)時 閉塞部は鼡径動脈と足背動脈の間にある。腓腹筋の疼痛を訴えることが多い。大腿動脈 の内転筋管部の閉塞が多いので、陰包およびその周囲に約2㎝交叉刺し、動脈壁に 針先が触れた後、それ以上刺入せず旋撚法を2~3回行なう。こうした治療を 1~2ヵ月間に週2~3回の頻度で治療して回復するものがある。 ・陰包(肝) 取穴:大腿内側の上方4寸。
縫工筋と薄筋の間。大腿骨 内側上顆と恥骨を結び、 内側上顆から1/4の部。 刺針:やや大腿直筋方向に向け て直刺。大腿動脈血管壁に命 中すると、手を離した際に、 脈拍と一致した針柄の動きが 確認できる。 内転筋管:大腿三角(スカルパ三角)において前面に位置する大腿動・静脈は、筋の間隙を 通って膝窩に向かう。その通路をなす間隙を内転筋管とよぶ。内側広筋、大内転筋、および 両筋の間に張る広筋内転筋膜によって囲まれる管状空間である。この中を伏在神経が走行す る。 b.衝門拍動(-)、太衝拍動(-)時 鼡径動脈より体幹側に動脈閉塞があ る。総腸骨動脈の閉塞を疑い、急脈 (衝門穴の内側で陰毛の中、外陰部 の上際の外側)から上内方に約2㎝ 刺入する。前者より重症で、下腿部 はもとより大腿筋まで緊張感や痛み を感じる。 このタイプの治療には、上記同様 の治療間隔で半年~1年以上の治療 を必要とする。長期治療を行なって も疼痛、痙攣の程度の減弱にとどま り、あるいは歩行距離が延長される のみの症例もある。 ② フォンティン分類Ⅰ度1例、Ⅱ度17名、Ⅲ度2例、Ⅳ度1例に対し、針治療を試みたと ころ、Ⅰ度とⅡ度の者では疼痛、冷感、連続歩行距離が有意に改善。Ⅲ度Ⅳ度では無効 。要するに阻血の程度の強い者に対して鍼灸は無効、Ⅰ~Ⅱ度の中軽度阻血 であっても、間欠性跛行が消失した者はなかったことから、主幹動脈の狭窄や閉塞は改善し ていないことを示唆。、1~3ヶ月の短期治療期間であっては、 血管の狭窄や閉塞といった器質的病変の改善は期待できないことを示すもの。 針治療は、症状部(下腿三頭筋、脛骨神経または、下腿前面から足背部の血海、足三里、 三陰交、太衝、太谿)への刺針パルス20分間実施。