機械受容性疼痛
運動器の痛みは一般的には侵害受容性疼痛とされるが、そうではないと考えている。刃物で切った傷口や、火傷した部位などを触ると傷害部位であるから心地よさなどなく、「痛い!触らないで!」となる。 運動器の痛みでも急性の外傷の痛み、即ち「肉離れの局所」や捻挫して靭帯の損傷した局 所であればその通りである。 しかし、慢性の運動器の痛みは腰痛、肩こりなどに代表されるように、むしろ痛むところを押したくなる。それは痛いところを確認したいという欲求に加えて、「痛いところを押すと楽になる」、押すと気持ち良いという事を経験・学習により知っているからである。 この違いは傷害による侵害受容性の痛みと慢性の運動器の痛みでは性質が違う、もっと 言えば感作されている受容器の種類が違うという事を示唆しているのではないだろうか。 また、鍼を刺入すると筋、血管内皮細胞を傷害する事から侵害刺激といえが、鍼をする度に必ずしも侵害痛が生じる訳では無い。運動器の慢性痛を訴える患者に、鍼で刺激した 場合も応答する(痛みや発生源認知が生じる)場合とそうでない場合がある。
主に老人の場合に多いが、鍼を打つという侵害刺激では関連痛、発生源認知が生じない が、マッサージなどの機械的刺激であればそれらが生じる患者がいる。 こうしたことから我々は慢性の運動器の痛みは「侵害受容性疼痛」ではなく「機械受容 性疼痛」であると考えられる。 筋・腱・靭帯・骨膜などに存在する機械受容器が頻回の筋収縮や、阻血や炎症などで産 生された感作スープにより過敏化し、機械的刺激のみならず侵害刺激に応答する受容体も 発現する。こうして感作が成立すると今度は同じ刺激で発痛する、これが慢 性運動器疼痛の発生メカニズムである。 こうしたことから、混合痛の代表は機械受容性疼痛と侵害受容性疼痛の混合痛であると考えられる。これは、自発痛があり、運動によって疼痛が増悪する場合を指す。(この場合の自発痛とは機械受容性疼痛でも生じる姿勢維持に伴う持続的な疼痛は除かれる。炎症性、外傷性の痛みを指す) このタイプの混合痛治療には鍼とNSAIDsの併用が必要で、NSAIDsだけでは運動痛に奏 功せず、鍼だけでは自発痛の改善に数か月の時間が必要と思われる。 この他にも機械受容性疼痛と神経障害性疼痛の組み合わせや、その他の組み合わせも存在するため鑑別には経験の集積が必要である。