侵害受容性疼痛
健常な組織を傷害するか、その危険性を持つ侵害刺激が加わったために生じる痛みを侵害受容性疼痛という。(塩酸を手に付けてしまうなどは化学的侵害刺激、包丁で指を切るなどは機械的侵害刺激、火傷をするなどは熱による侵害刺激である。) 直接侵害刺激が加わったために侵害受容器が刺激されて痛むか、組織の損傷により生じた発痛物質が侵害受容器を刺激して痛む。侵害刺激により多少なりとも組織損傷が生ずると続発して発痛物質が産生される。発痛物質には発痛作用があるが、加えて発痛増強作用といって痛みの発生源となる物質・刺激に対する受容体の感受性を高める作用もある。(プロスタグランジンEなど)発痛物質にはブラジキニン、ヒスタミン、アセチルコリン、セロトニン、カリウム、水素イオン、プロスタグランジンE、サブスタンスP、各種サイトカイン、一酸化窒素、リポキシゲナーゼ系代謝産物などがあり、炎症の場では多種の発痛物質が混在・集積し「痛みのスープ」ができ上がり、受容器を感作させ発痛する。運動器の痛みでは骨折や打撲などの外傷がこの痛みの代表であるが、変形性関節症などの慢性の運動器の痛みも一般的にこのカテゴリーに分類されている
しかし、変形性関節症などの慢性の運動器の痛みは侵害受容器が刺激された痛みとは性質が違う
神経障害性疼痛
末梢神経あるいは中枢神経の機能異常による痛みを神経障害性疼痛という。侵害受容器が侵害刺激を受けていないにもかかわらず、末梢神経あるいは痛みの伝導ニューロンの興奮が引き金となって生じる痛みである。特徴的な症状として痛覚過敏(アロディニア)が出現し、「灼けるような、灼熱感のある痛み」、「電撃性で刺すような痛み」、「ビリビリするような痛み」などと表現される日常生活ではあまり経験しないような性質の痛みで難治性である事が多い。末梢神経の損傷(圧迫、絞扼、切断、脱髄)や機能異常による痛みには、三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、CRPSⅡ,糖尿病性ニューロパチーなどがある
中枢神経の異常による痛み
中枢神経の異常による痛みは、脳または脊髄に障害があり、末梢の侵害受容器からの入力がなくてもあたかも受容器が強く刺激されたときに生じるような激しい疼痛で、脊髄損傷性疼痛、脊髄空洞症、脊髄癆、脳血管障害後疼痛などがあるが、さらに最近f-MRIなど脳の画像による痛みの研究では下行性疼痛抑制経路の破綻としての線維筋痛症なども中枢性の疼痛に分類されている
心因性疼痛
明らかな身体的な要因がなく、その発生に心理社会的因子が関与している痛みを心因性疼痛という。
混合性疼痛
いくつかの種類の疼痛が混合したものを混合性疼痛と呼んでいる。神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛の要素を併せた疼痛が代表とされるが、神経障害性疼痛と心因性疼痛、侵害受容性疼痛と心因性疼痛の組み合わせなども考えられ、鑑別には注意を要する