耳鳴の原因
耳鼻科通院の主訴として最も多いのが耳鳴であるという。耳鳴は自覚症状(難聴と違い、客観 的な把握が困難)であり、病態生理も完全には解明されていないが、つぎのような見解がある
①蝸牛の外有毛細胞が、炎症・循環障害・薬物障害・加齢などで変性することが誘因
②蝸牛の外有毛細胞の振動(2万回/秒)の音に対する過敏(非病的)。 誰しも、就寝前などの静かな場所で、一過性に強い耳鳴を感じることがある
③内耳からの信号を脳内で独自に増強し、やがて不安・不快・焦りといった感情と結びつくこ とによって慢性耳鳴が生じる。耳鳴→気になって不眠→不安→耳鳴増強とった悪循環
めまいの診察
1.運動失調について 平衡覚は前庭系のほかに、脊髄系(手足や首の筋肉や関節からの情報。脊髄後索を上行する) と視覚系が関与し、3系統の感覚情報は、すべて延髄の前庭神経核に伝達される。延髄は、こ れらの情報を総合判断し、身体平衡を保つ。 運動失調とは「筋力は正常だが、運動の協調性(バランス)が失われた状態」と定義される。 運動失調は酩酊時のように、運動時静止時に関係なく「体」で感じる感覚なのに対し。めまいは 静止時に「頭」で感じる感覚である
1)深部感覚性運動失調 深部感覚障害とは、自分の手足の筋や関節から、位置に関係する情報が脊髄後索の伝導障害 (特定の体位時、頸髄部後索の排圧による)のため、脳に正確に伝わらない状態。運動時は 眼からの位置情報に頼ることになる。特定の姿勢で誘発され、再現性がある。歩行時には足下 をみつめ、踵をたたきつけるような歩行になる。ロンベルグ徴候陽性(閉眼両脚立ち不能)。 代表疾患は脊髄癆。※脊髄の前側索障害では、温・痛覚が障害される。代表疾患は脊髄腫瘍
2)小脳性運動失調 小脳は意図した運動がスムーズにできるよう数種類の筋肉を調整する仕事をしている。 小脳の障害では、意図した位置にうまく手足が運べない、手足が震える、運動を繰り返す際の リズムが悪い、運動開始の遅れなどが生ずる。開眼していても両脚立ちができない(ロンベル ク検査実施不能。ゆえにロンベルク徴候陽性とはいえない)
※小脳の役割:前庭神経核は、平衡バランスをとるための種々の入力の集合場所であるが、 外的環境の変化に対する自己姿勢維持機能しかない。能動的に動き、手足を意のままに 動かすには、小脳の働きが必要になる。(小脳障害では酩酊様歩行になる)
3)前庭性運動失調 いわゆる「めまい」(自覚症状)が生じ、他覚所見としては平衡障害が生ずる。 内耳迷路の症状である。ロンベルクテスト(閉眼両脚立ち)でも、即座に倒れることはない。 「回転性めまい」と「動揺性めまい(=めまい感)」に大別する。 回転性めまい(真性めまい)Vertigo:ぐるぐる回る 非回転性めまい動揺性めまい(めまい感、仮性めまい) Dizziness:グラグラする 失神性めまい(立ちくらみ):立ち上がった際、フラッとする
2.回転性めまい 眼振の結果、景色がぐるぐる回っているように感じる。
1)前庭症状(回転性めまい)+蝸牛症状(難聴・耳鳴) 感音性難聴+回転性メマイが同時に出現した場合、内耳の広範な障害を疑う。 ①メニエール病②突発性難聴
回転性メマイ単独 内耳の平衡覚に関する部分の障害を疑う。難聴・耳鳴なし。 ①良性発作性頭位めまい②前庭神経炎
2.動揺性めまい 1)中枢神経疾患 身体の平衡をとっているのは、脳幹と小脳であり、これらの異常により運動失調(酩酊様 歩行)が起きている状態。代表疾患は、聴神経腫瘍、小脳脊髄変性症。 2)頸性めまい(変形性頚椎症、むちうち等) 3)内科疾患(貧血、起立性低血圧など)
3.失神性めまい 体位変換で失神が誘発する。立った瞬間に血圧が下がって、意識中枢のある脳幹網様体が虚 血を起こしている状態。もしこの状態が続けば脳幹死になる
1)神経症状あり:シャイ・ドレージャー症候群、起立性低血圧、糖尿病性神経炎
※シャイ・ドレージャー症候群 原因不明の起立性自律神経失調症。座るにも不自由する。難病指定疾患。他に種々の自律神経症状を呈 する。針灸に独歩通院することは考えられない
シェロンSchellong テスト(起座テスト)陽性。老人 でシェロンテスト陽性時には、中枢性の平衡障害を疑う。多くの場合、椎骨動脈不全を考える。本症では 意識障害を伴う激しい回転性めまいとなる。若年者でシェロンテスト陽性時には、まず起立性自律神経失 調症を考える。本症では朝礼中にひっくり返るなどの事態を起こすが、生命に別状ない
※シェロンSchellong テスト:別名、起座テスト。仰臥位で血圧と脈拍数を測定。続いて起立させて血圧と 脈拍数を測定。起立時に血圧の上が20~40㎜Hg以上降下したものを陽性とする。陽性者の中で、通常は 代償的に脈拍数増加するが、脈拍数不変であれば重症。(→§5 起立性低血圧の項を参照)
2)神経症状なし:過労、長期臥床、低血糖
4.平衡障害の検査 メマイは入力系障害の結果としておこる自覚症状なので客観的な評価は難しい。一方、前庭神 経核からの出力系障害を平衡障害とよび、平衡障害は次のような前庭反射を引き起こすので、客 観的に評価できる。前庭反射で臨床上重要なのが前庭-眼反射と、前庭-脊髄反射である
1)前庭-眼反射 動眼神経の混乱による眼振(ニスタグムス)。 眼振は、三半規管や耳石器内のリンパ液の動きと同調している。 前庭眼振は水平眼振となる。垂直眼振であれば中枢性疾患を疑う
2)前庭-脊髄反射 身体のバランスをとるために、全身骨格筋の緊張を変化させている。脊髄性運動失調で異常 となる。
①ロンベルグ試験Romberg’s sign
第1段階:開眼で両足をそろえ、爪先を開いて起立させて身体動揺の有無を調べる。 この状態では、視覚と関節位置覚(脊髄後索を伝わる)の具合を診ており、どちらか 一方が正常でも平衡を保つことができる。
第2段階:次に閉眼させ、再び身体動揺の有無を調べる。この状態では視覚情報がカット され、関節位置覚のみを診ている。 小脳失調:第1段階自体ができない
脊髄後索障害:第1段階は可能だが,第2段階のテストで途端に患側方向に倒れる
内耳迷路障害:第1段階は可能。第2段階のテストでは、ゆっくりと倒れるが、頭 位による影響を受けやすく、頭を前屈したり側方に向けたりすると 倒れる方向が変化する
②マンの検査:両足を前後に一直線上におき、爪先と踵を接して立ち、動揺性の有無を調べる。 次に閉眼して再び身体動揺の有無を調べる
③直線歩行試験:目を閉じて10mの直線コースを歩く。1m以上偏倚すれば異常
④足踏み試験:直径40㎝の円の中央に立たせて閉眼させ、足踏みさせる。何回目で円外に足が 出たかを記録
3)前庭-自律神経反射 悪心嘔吐、冷感、心悸亢進などの迷走神経症状をきたす。乗り物酔いや、汚物を見た際に生 ずる吐気などで生ずる。前庭-自律神経反射は診断には用いない