先天性股関節脱臼
1)概念:出生時、関節包がゆるみ、大腿骨骨頭が関節包をつけたまま関節外に脱臼した状態。 女児に多い。成因として、逆子(=骨盤分娩。正常は頭位分娩)、ホルモン因子(母胎の エストロゲン分泌↑)、オムツなど。 年長になるほど整復が困難。放置すれば中年以降、変形性股関節症となる
変形性股関節症
1)病態・原因:股関節の変形。大部分は先股脱や ペルテス病による二次性による。
2)症状・所見:股関節部痛、股関節の運動制限
鼠径部外端の圧痛、すなわち大腿直筋の起始部付近の痛みの 場合、歩行の際太ももを挙げる際に痛むと訴えることが多い
ペルテス病
病態:成長期における大腿骨頭の阻血性壊死。壊死した骨や軟骨組織はいったん結合組織に置 換され、その後に修復される。阻血の原因は不明。予後良好。4~10才に好発(男>女)。 症状:随意性跛行ならびに股関節痛、股関節の内・外旋障害
大腿骨頭壊死
病態:股関節脱臼、骨折などが原因となり、大腿骨骨頭の栄養動脈の狭窄や閉塞により、無腐 敗性(無菌性)壊死が片側または両側性に起こる疾患。40 ~ 60 才の男性に多い
症状:股関節の疼痛、圧痛、跛行、内転外転障害
鼠径部と大腿部の診察ポイント
腰痛や膝痛は、針灸で頻繁に遭遇する疾患であり、両疾患が合併しているケースも少なくない。 鼠径部から大腿部にかけての診察は、これらの症状にとって重要な診察ポイントがある
大腿基部内側で、縫工筋、長内転筋の内側縁、鼠径靱帯で囲まれた部を、スカルパ三角 (=大腿三角)とよぶ。鼠径靱帯上で、スカルパ三角部の中央付近(衝門付近)を、大腿動脈・ 大腿静脈が縦し、その外方を大腿神経が縦走している。 スカルパ三角の深層には腸腰筋(大腰筋・小腰筋・腸骨筋)があり、その深部に股関節骨頭 がある。 長内転筋は、パトリックテストの肢位をすると、隆起するので、摘むことが容易である。 長内転筋の内側には、薄筋・半膜様筋・半腱様筋といった大腿の内転筋群が存在する
大腿~鼠径部の診察点と意義
大腿を屈曲させるのは、大腿直筋と腸腰筋の共同作用である。 大腿四頭筋は、4筋とも膝関節伸展作用はあるが、股関節屈曲作用があるのは大腿直筋のみ である。具体的には大腿直筋が収縮すると、脛骨粗面と腸骨の下前腸骨棘を 近づけるように作用する。 一方腸腰筋が収縮すると、大腿骨小転子と腰椎を近づけるように 作用する。なお内側広筋・外側広筋・中間広筋は、大腿屈曲作用は ない。下前腸骨棘部に圧痛あれば、大腿直筋の緊張を考 える
大腿直筋と腸腰筋の関係 大腿直筋は大腿屈筋なので、本筋の緊張は同じ大腿屈筋である腸 腰筋の緊張がることを予測させる。腸腰筋の圧痛の有無は、スカル パ三角部を深く押圧して調べる
大腿前面の膝蓋骨付近にある筋の圧痛 四頭筋のトリガーは、このあたりに集中している。この部に圧痛あれば、原疾患として膝関 節症とくに大腿膝蓋関節症を考える
大腿内側の恥骨付近にある筋の圧痛 大腿内転筋群のトリガーは、このあたりに集中している。この部に圧痛あれば、原疾患とし て膝関節症とくに鵞足炎を考える。 強く開脚すると、大腿内転筋群の一つである長内転筋が隆起する
大腿外側筋の圧痛 大腿外側部にある大腿筋膜張筋、外側広筋、腸脛靱帯などに圧痛があれば、大腿外転筋の緊 張を考える。この場合、同じ大腿外転筋である殿部の中殿筋の緊張を調べる必要があり、中殿 筋の圧痛がれば、股関節症の可能性を疑ってみる
スカルパ三角の診察 スカルパ三角部を深く押圧した際、骨の存在が感じられない場合を「スカルパ三角の空虚」 といい、先天性股関節脱臼の所見として知られている。 股関節症では、中殿筋部にある大転子周囲の圧痛と並び、スカルパ三角部に圧痛が診られる ことが多い
大腿動脈、大腿神経、大腿外側皮神経の診察 鼠径溝にほぼ一致した鼠径靱帯は、上前腸骨棘と恥骨結合を結んでいる。鼠径靱帯のほぼ中 央に大腿動脈の拍動を触知する部があり、拍動減弱時には、下肢閉 塞性動脈硬化症を考える。 大腿神経は、大腿動脈の外方で、鼠径靱帯の外1/3 ほどの処を縦走している。 この部での圧痛は、大腿神経絞扼障害(大腿前面の皮膚知覚過敏や四頭筋、恥骨筋、縫工筋 の緊張)を考える。 鼠径靱帯の上前腸骨縁には大腿外側皮神経があり、大腿外側皮 神経痛(大腿外側の皮膚痛)の神経絞扼ポイントになる