ギラン・バレー症候群
原因:風邪や下痢などをもたらす細菌やウイルスを排除しようとする抗体が、自己の運動神 経を特異的に攻撃した結果、発病1~2週間後に髄鞘が分節的に変性して脱髄が起こり、 運動麻痺が起こる。さらに神経変性症状が出現し、多発性神経炎が起こる
症状 ①運動神経の侵害:両側四肢や両側顔面の弛緩性運動麻痺。深部反射消失。呼吸困難。 ②感覚神経の侵害:手袋足袋型の知覚麻痺。 周期性四肢麻痺では四肢の弛緩性麻痺を生ずるが、感覚障害は生じない。 脱髄:有髄神経の軸索は正常。髄鞘が脱落する。このため神経伝導速度は無髄神経程度になる。 ③髄液検査で蛋白細胞解離を認める
ギランバレー症候群の症状所見
四肢運動麻痺 両側性顔面麻痺 手袋足袋麻痺 蛋白細胞解離
治療:血漿交換(感染した血漿を捨て、人工血漿を体内に入れる)
予後:6割は完全治癒。3割は障害を残す。死亡は1割で、呼吸筋麻痺によるもの。 2本以上の末梢神経が同時に侵されたものを、多発性神経炎(=多発ニューロパチー)とよぶ。 多発性神経炎は、臨床では糖尿病性神経炎やギラン・バレー症候群が多い。 先進国で、手足が動かなくなる病気は、脳卒中についでギラン・バレーが多い
ベル麻痺
原因 特発性末梢神経性の顔面麻痺。顔面神経管内における顔面神経の浮腫(ことに顔面神経管の 末端や茎乳突孔付近に障害)が原因として想定されているが、最近では単純ヘルペスウイルス の再活性によるという説が有力となった。突発的で急激に発症。最も高頻度な顔面麻痺。 単純性疱疹とは:単純ヘルペスウィルスによる。幼少の頃に感染するが、神経細胞に潜み込んで症状の出ないことも多い。免疫力低下すると皮膚に症状出現する。1型は唾液から感染、口唇部のヘルペスとなる。 2型は性行為から感染し、外陰部や殿部のヘルペスとなる。終世免疫ではなく、何回も感染する。 ※ベル麻痺が6~7割、ハント症候群は1~2割で、両者を併せると約8割になる
症状
①顔面表情筋の麻痺 a.前頭筋麻痺 麻痺側の額のしわ寄せ不能 b.眼輪筋麻痺 閉眼不能。 麻痺側の白眼が残る。 ・兎眼→眼が大きく開き、閉眼困難 となる現象 (ウサギには瞼がなく常に開眼状態) ・ベル現象→強く閉眼を試みると 眼球が上方回転する現象。 眼輪筋麻痺による。 健常者でも強く閉眼すると、角膜保護のため眼球が上方回転するが、閉眼していて観察できない。
眼を閉じる作用は眼輪筋(顔面神経支配)、眼を開ける作用は上眼瞼挙筋(動眼神経支配)。 要するに、顔面麻痺では完全には閉眼できず、動眼神経麻痺では完全には開眼できない。 眼瞼下垂を起こすのは、①動眼神経麻痺、②ホルネル症候群、③重症筋無力症の3疾患。 c.皺眉筋麻痺→眉間の縦ジワ消失。 d.大頬筋麻痺→:笑う際の頬の挙上困難。 e.口輪筋麻痺→地倉(胃):口笛が上手く吹けない、口をすぼめない
②聴覚過敏←アブミ骨筋神経症状
③涙の分泌障害←大錐体神経症状
④味覚障害、唾液分泌障害←鼓索神経症状
⑤眼輪筋・角膜反射の消失 角膜反射とは、角膜(黒目部分)を脱脂綿の先などで軽く刺激した際、正常ならば迅速に眼輪筋の作 用で閉眼する現象である。求心路は三叉神経、遠心路は顔面神経、反射中枢は橋。したがって顔面神麻 痺では眼輪筋が麻痺した結果、閉眼不能となり、また三叉神経第1枝の麻痺でも角膜反射消失が起こる
ラムゼイ・ハント症侯群
原因
幼少の頃の水痘ウィルス感染の既往あり。水痘症状は完治するが、顔面神経膝神経節部に 水痘ウィルスが潜み、休眠状態におかれる。成人になって過労やストレスなどで免疫力が低下 した際、このウィルスは帯状疱疹ウィルス(水痘ウィルスと帯状疱疹ウィルスは同じもので、 水痘帯状疱疹ウィルスともよぶ)と名称を変え、再活性化する。顔面麻痺の2割を占める。 水痘:通称水ぼうそう。2~6歳の幼児に好発。接触、飛沫、空気感染。潜伏期は11~20日。38~39℃の発 熱とともに、全身(頭髪や口中にも)に赤く隆起した小さな発疹ができる。これはやがて水2~5㎜ほ どの水疱(内部に水をもった発疹)となり、2~3日で乾いて痂皮となり治癒する。終生免疫。 帯状疱疹の症状:まず皮膚の痛みや痒みが出現し(出ないこともある)、その後水疱が出始める。数日後には、それらが集まり、身体の片側に神経走行と一致した帯状の配列をつくる。1週間程度で水疱は破れ、 乾いて痂皮となり、間もなく治癒するが、ときに水疱痕が残ったり、帯状疱疹後神経痛として難治性の 後遺症が残ることもある。水痘の感染既往のない者は、帯状疱疹とはならず、水痘とし症状出現する
症状・経過
突然の顔面神経麻痺の発病後(この段階ではベル麻痺と区別がつかない)、4~5日程度で 外耳道や耳垂部に水疱ができた場合、ラムゼイハント症候群と診断される。水疱ができる以前 に、耳中や耳の後ろの痛みを伴うことも多い。聞こえが悪くなったり、耳鳴りがしたり、ふら つきやめまいが生じることもあえる。麻痺と同側の涙の分泌低下、味覚の低下や聴覚過敏(物 音が響く)になることもある。水疱自体は、まもなく痂皮となり自然治癒する。 ①末梢性顔面麻痺 ②聴神経症状:難聴・耳鳴・めまい※聴神経とは、内耳神経の別称のことである。 ③顔面神経膝神経節神経痛:外耳道(軟口蓋部)や耳介の痛みを伴う小水疱(帯状疱疹