1.頸部軟部組織障害
本症は、頸部痛単独の場合が多い。頸部痛に上肢の痛みやシビレが加わったケースもあるが、
他覚的な神経異常所見を欠く。
代表疾患:寝違え(急性疼痛性頸部拘縮)、鞭打ち症(外傷性頸部症候群)の大部分。
症状:後頭部、項部、肩甲上部の凝りや痛み。上肢症状(-)
理学テスト:頸部ROM制限
①前屈60°、後屈50°
②側屈50°
③回旋60°
※記憶法:ハイとイイエは60°
それ以外は50°
(前屈と回旋は60°)
④後頭骨-C1間のROM:屈曲10°伸展25°
⑤C1-C2間のROM:回旋45°
1)急性頸部筋々膜症(=寝違え)
①病態
頸肩背部の強い運動制限を伴う急性の痛みの代表原因に、「寝違え」がある。しかし同様
の病態にも、日中仕事をしているうちに次第に寝違えた感じがしてくることもある。これら
急性に生じた頸部の筋々膜痛を総称して、急性頸部筋々膜症とよぶ。
症状のメカニズムはあまり明らかでないが、何らかの原因で筋の短縮が生じたため、該当
筋を伸張させようとする動作で痛みを発するのだと思われる。すなわち筋の伸張による痛み
である。
筋の短縮(過剰収縮)自体は鈍痛様であるが、筋の伸張痛では鋭い限局性の痛みを生ずる。
②理学テスト
痛む部を伸張させる際、動作時痛を伴う頸ROM制限
2)外傷性頸部症候群(頸椎捻挫)
①病態
代表例にムチウチ症があるが、今日では正式病名としては用いられない。交通災害に限ら
ず、外傷性機転により発症する頸部痛を、頸椎捻挫あるいは外傷性頸部症候群とよぶように
なった。すなわち頸部に瞬間的に外力が働き、頸部が受動状態で伸展や屈曲の過剰負荷が加
わった病態をいう。
②分類
a.軟部組織障害型
頸部の筋々膜症や頸椎の捻挫による。いわゆるムチウチ症の90%は本タイプ。
頸痛、頸部運動制限
b.自律神経障害型
急性の頸椎捻挫型が治らないと慢性化し、3ヶ月を経過すると自律神経障害型になる
ことがあり、頸部交感神経刺激症状を生ずる。これをバレリュー症候群
とよぶ。
バレリュー症候群=軟部組織障害型+頸部交感神経刺激症状(めまい、嘔気、不眠、
手のシビレ、耳鳴り、眼精疲労など)
c.神経障害型
神経根障害型と脊髄障害型に分類できるが、ムチウチ症で生ずることは少ない。
ただし脳震盪による一過性の神経障害の症状・所見をみることはある。神経障害型
は、慢性期になって徐々に発症することはない。つまり初診時に本徴候を認めない例
は、神経障害型を否定できる。