4)前立腺肥大に対する鍼灸治療
鍼灸は前立腺の肥大自体を改善することはないが、治療により尿は出やすくなる。
一般的な針灸治療としては下腹部(とくに中極の多壮灸)、八髎穴に行い、針は陰
部神経に当て陰茎に響かせる。または前立腺に対する刺針を行う。おそらく交感神経
を興奮させることで排尿促進に誘導しているのであろう。
前立腺肥大は進行性であり、長期的にみると排尿困難は悪化することが多いので、結局
は手術することになる例は非常に多い。針灸すると一時的にせよ、良好な状態を維持で
きることが多いが、これが手術の適切時期を遅らす結果になるという見解もある。
①前立腺刺針
陰茎と陰嚢の境目あたりから中心部に向かって2㎝刺針し、中程度の雀啄を5~
6秒する。左右2点から行う。
②前立腺肥大に対する中髎手技針有効の研究報告
北小路博司は、前立腺肥大症1期の排尿症状に対して、中髎穴への5㎝刺入、10分間の回
旋手技を用い、週1回治療10回の結果として、尿量増加と夜間排尿回数の減少を観察した。
この治効は、八髎穴刺激により、前立腺平滑筋の緊張を緩和した結果、尿道抵抗が減少したた
めと考えられる。
ただし、施術中止後2ヵ月たつと、治療前に復する傾向を観察した。
頻尿・尿失禁・排尿困難
蓄尿と排尿の機序とおもな疾患
1.排尿と畜尿のしくみ
①膀胱に一定量の尿が溜まり、膀胱内圧が15~20mH2O以上になると、尿期を感じるととも
に排尿反射が起こり、尿は体外に排泄される。(膀胱の最大畜尿量は約300~400ml)
②膀胱内圧が一定以上になると、その情報は骨盤神経を介して仙髄にある排尿中枢(=下位排
尿中枢)に伝達され、反射的に排尿筋の収縮と内尿道括約筋の弛緩が起こる(排尿反射)。
③一方、この情報は脊髄を上行して大脳に伝達され(尿意を知覚)、橋にある上位排尿中枢に
排尿の指示を送る。さらに下位排尿中枢は大脳からの指令をうけて、陰部神経を外尿道括約
筋を弛緩させ、排尿が行われる。
④さらに腹圧を高めることで排尿は促進される。
尿意の自覚?
なし
あり
畜尿期
不可
排尿してよいか?→ 排尿我慢期
可
排尿期
排尿は、ビーチボールや浮輪の空気を抜く時の動作に似ている。空気の出入り口の栓を開け(外尿道括約筋弛
緩)、指で摘んで弁を開き(内尿道括約筋弛緩)、もう片方の手でビーチボール自体を圧迫する(膀胱括約筋
収縮)。
優位神経膀胱括約筋内尿道括約筋外尿道括約筋
(自律神経支配) (自律神経支配) (陰部神経支配)
畜尿期交感神経弛緩収縮収縮
排尿期副交感神経収縮弛緩弛緩
排尿我慢副交感+陰部神経収縮弛緩高度収縮