股関節疾患
1.股関節の構造
寛骨臼蓋と大腿骨頭との間に形成される臼状関節である。大腿骨頭と臼蓋の回りを関節包が覆 うように取り囲む。 大転子はローゼル・ネラトン線(45 度股関節屈曲位で上前腸骨棘と坐骨結節を結んだ線) 上にある。大腿骨頭は、スカルパ三角(大腿三角)、すなわち鼡径靱帯、縫工筋、内転筋で囲ま れた部位に位置する。股関節脱臼では、大腿骨頭がスカルパ三角の位置からずれる。
寛骨とは、腸骨、坐骨、恥骨が結合したもの。左右1対ある。
股関節は臼状関節で、肩関節のような球状関節と比べて、関節窩は深く安定性が高い反面、運動性は低い。 したがって股関節は肩関節に比べて脱臼は起こしにくいが、一旦脱臼を起こすと整復は難しい。
2.股関節のROMと主動作筋
1)股関節の運動方向
①屈曲:~ 125 °、②伸展:~ 15 °
③外転:~45°、④内転:~20°
⑤外旋:~45°、⑥内旋:~45°
2)股関節運動の主動作筋
①屈曲:主>腸腰筋補>大腿直筋 大腿直筋の起始は下前腸骨、停止は膝蓋骨を経由して脛骨粗面 である。本筋は2関節筋(股関節と膝関節をまたぐ)であり、 股関節屈曲作用と下腿伸展作用を併せもつ。それ以外の四頭筋 の起始は大腿骨にあるので、股関節屈曲作用はない。
②伸展:主>大殿筋補>ハムストリング筋 ハムストリング筋とは膝窩に腱をもつ筋の総称で、大腿後側にある。半腱様筋と 半膜様筋は内側腱を、大腿二頭筋は外側腱を構成する。
③外転:主>中殿筋補>小殿筋、大腿筋膜張筋側殿部にある筋群。 ④内転:主>長内転筋補>短内転筋、大内転筋、薄筋大腿内側筋群。 ⑤内旋:股関節外転筋と同じ ※歩行の際には、遊脚は少し外転しつつ前方へ繰り出す。外転の際には同時に内旋もする。(尻を振る) ⑥外旋:殿部深筋群(梨状筋、上双子筋、内閉鎖筋、下双子筋、大腿方形筋、外閉鎖筋)
先天性股関節脱臼
1)概念:出生時、関節包がゆるみ、大腿骨骨頭が関節包をつけたまま関節外に脱臼した状態。 女児に多い。成因として、逆子(=骨盤分娩。正常は頭位分娩)、ホルモン因子(母胎の エストロゲン分泌↑)、オムツなど。 年長になるほど整復が困難。放置すれば中年以降、変形性股関節症となる。
2)症状・所見
①新生児・乳児期 a)バーローテストBarlow test(+) 母指で小転子を押さえて骨頭を後方かつ外方に押さえる。この手技で骨頭が脱臼すれば 股関節の不安定を意味する。 b)オルトラニテストOrtolani test(+)(オルトラニクリックサイン、クリックサイン) 膝を包み込むようにして開排させると小さなクリック音を感じるものを陽性とする。 c)アリスサインAllis sign (+) 仰臥位で両膝を立てたとき、脱臼側の膝が健側に比べ て低くなる。 d)スカルパ三角の空虚 スカルパ三角を押圧すると、健常者では大腿骨骨頭を 触知できるが、先股脱患者では骨を触知できず、空虚に感じる。e)その他:患側下肢の短縮、外反足、大腿皮膚溝が左右非対称
②乳児期(歩行開始後) a)処女歩行の遅延 b)トレンデレンブルクTrendelenburg 徴候 方法:立位で、片足立ちにして、骨盤の傾斜を みる。健常者では骨盤はほぼ水平保持する。 患側で片足立ちになった際、健側の骨盤が降 下するものを陽性とする。 意義:中殿筋(股関節外転筋)の筋力低下や 股関節支持力をみる。 代表的疾患=先天性股関節脱臼、内反股 中殿筋麻痺はトレンデンブルグ、大殿筋麻痺は登攀性起立 c)異常歩行 片側性先股脱時:墜落性歩行(代償作用として上体が患側へ振り出しての歩行) 両側性先股脱時:あひる歩行(=動揺性歩行) (殿部を後方につき出して歩行)。 筋ジスでも、あひる歩行をみる。 d)大転子の高位(ローゼル・ネラトン線を基準として) 3)治療:整復操作後、3~4ヶ月間リーメンビューゲル装具で固定