頭部領域では、皮膚や筋肉内では多くの知覚神経が存在する。頭蓋内は、脳をつつむ硬膜 や太い血管周囲には知覚神経が多く存在するものの、脳内に痛覚はほとんど存在しない。 また、頭蓋内には、その内部の圧を一定に保とうとするシステムが存在する。ゆっくりと大 きくなる良性の脳腫瘍の場合では、このシステムが充分に機能する時間的余裕があり、腫瘍が かなりの大きさになるまで頭痛が生じないこともしばしばある。一方、脳内出血やクモ膜下出 血の場合では、このシステムが働く時間的余裕がなく頭蓋内圧は急激に上昇し、激しい頭痛が 生じます。頭蓋内圧が上昇することで、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるため。 また、頭部前方部の痛みや頭蓋内の痛み刺激の多くが、三叉神経を通して脳内に伝わるが、 この神経は顔面にも広く分布しており、顔面領域の痛みが頭痛として知覚されることもある (アイスクリーム頭痛や副鼻腔炎など)。
脳は、頭蓋骨と、頭蓋骨内側にある3種の髄膜で包まれて いる。髄膜は、頭蓋骨側から硬膜・クモ膜・軟膜がある。 硬膜とクモ膜間には硬膜下腔があり、その中を静脈が環流 する。クモ膜と軟膜間にはクモ膜下腔があり、その中を脳 脊髄液と静脈が環流する
緊急を要する頭蓋内の疾患
緊急を要する頭痛の共通事項は、「発症が急激で吐気 嘔吐を伴う」ことであり、脳内出血、クモ膜下出血、急性 硬膜下血種、髄膜炎の可能性がある。疑わしい場合、髄膜刺激症状の有無を診ること。
1)急性硬膜下血腫 ゴルフボールが当たるなど、局所に強い打撲があると、静脈が切れて出血する。傷口は小 さいが、止血できないので、数時間後には血腫が広がり、脳実質を圧迫するまでになる
2)クモ膜下出血 先天的に脳動脈瘤があり、これがなんらかのきっかけで破裂する。この時の動脈出血はジェ ット噴流様であり、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるため、バットで殴られたような激 しい頭痛が突然生じ、次第に意識消失する(出血量が少ないと意識消失までに至らない)。 出血すると脳脊髄液も赤く染まるので、脊髄穿刺で、血性髄液を認めれば本診断が確定し、 緊急外科手術が必要である。出血が持続すれば脳実質を圧迫する
3)髄膜炎 感冒などを契機に細菌またはウィルスが髄膜(とくに脳軟膜)に侵入し、クモ膜下腔にある 脳脊髄液で増殖し、発熱、頭痛など感冒様症状を呈する。脳実質に感染が拡大すると意識消失 する
髄膜刺激症状 物理的要因や感染で、脳脊髄液が刺激されると、髄膜刺激症状を生ずる。髄膜炎、クモ膜下出 血などで陽性。髄膜刺激の3大症状は、頭痛・項部強直・ケルニッヒ徴候である。これが全身に およべば後弓反張であり、破傷風で出現する
①項部硬直:頭部を高く持ち上げると、髄膜が伸展されて刺激される。感染などで髄膜が過敏になっていると、 これ以上脳髄を刺激しないようにするため、反射的に筋肉が働き、項部硬直として現れる
②ケルニッヒ徴候:仰臥位で膝を伸ばしたまま下肢を挙上させると、膝折れが生ずる徴候
③ブルジンスキー徴候:仰臥位。患者の頭を他動的に挙上させると、股と膝が屈曲する
脳圧亢進症状 きまった体積しか入らない頭蓋内に、新たな物質が加わると、脳脊髄液と脳実質に高圧力が加 わり、脳圧亢進症状として病的状態になる。その3大症状は、頭痛・嘔吐・鬱血乳頭である。 脳圧亢進をきたす疾患には、水頭症、脳脊髄膜炎、脳出血、クモ膜下出血、脳腫瘍などがある
鬱血乳頭:視神経が眼底に首を出している部分(乳頭)が、赤く腫脹し周囲の網膜より隆起
牽引性頭痛:頭蓋内血管の牽引による頭痛。頭蓋内圧の変化や血流の変化により生ずる頭痛