鍼灸適応
後頭神経痛 緊張性頭痛 片頭痛
頭部領域では、皮膚や筋肉内では多くの知覚神経が存在する。頭蓋内は、脳をつつむ硬膜 や太い血管周囲には知覚神経が多く存在するものの、脳内に痛覚はほとんど存在しない。 また、頭蓋内には、その内部の圧を一定に保とうとするシステムが存在する。ゆっくりと大 きくなる良性の脳腫瘍の場合では、このシステムが充分に機能する時間的余裕があり、腫瘍が かなりの大きさになるまで頭痛が生じないこともしばしばある。一方、脳内出血やクモ膜下出 血の場合では、このシステムが働く時間的余裕がなく頭蓋内圧は急激に上昇し、激しい頭痛が 生じます。頭蓋内圧が上昇することで、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるため。 また、頭部前方部の痛みや頭蓋内の痛み刺激の多くが、三叉神経を通して脳内に伝わるが、 この神経は顔面にも広く分布しており、顔面領域の痛みが頭痛として知覚されることもある (アイスクリーム頭痛や副鼻腔炎など)。 頭痛の診療でまず行うべきことは、鍼灸の適応症と不適応症の鑑別である。不適応であれば、 専門病院受診を指示する。鍼灸適応であれば、さらに詳細に診察し、鍼灸治療方針を考える。
1.頭蓋内性頭痛に注意 一般に、頭蓋内疾患に起因した頭痛は鍼灸の不適応が多く、頭蓋外性頭痛は鍼灸適応症が多い。 頭痛部位が患者自身不明瞭で、持続的に痛み、外的刺激に無関係であれば、頭蓋内性の頭痛を考 える。急性の頭痛には危険なものが多く含まれるが、慢性頭痛で緊急を要するものはまずない。
頭蓋内疾患 頭蓋外疾患
代表疾患 高血圧、動脈硬化、脳腫瘍、緊張性頭痛、後頭神経痛、 髄膜炎、片頭痛、群発性頭痛
疼痛部位 不明確 明瞭 痛む時間 持続的 間欠的 外的刺激 変動しない 変動する
脳は、頭蓋骨と、頭蓋骨内側にある3種の髄膜で包まれて いる。髄膜は、頭蓋骨側から硬膜・クモ膜・軟膜がある。 硬膜とクモ膜間には硬膜下腔があり、その中を静脈が環流 する。クモ膜と軟膜間にはクモ膜下腔があり、その中を脳 脊髄液と静脈が環流する。
緊急を要する頭蓋内の疾患 緊急を要する頭痛の共通事項は、「発症が急激で吐気 嘔吐を伴う」ことであり、脳内出血、クモ膜下出血、急性 硬膜下血種、髄膜炎の可能性がある。疑わしい場合、髄膜刺激症状の有無を診ること。
1)急性硬膜下血腫 ゴルフボールが当たるなど、局所に強い打撲があると、静脈が切れて出血する。傷口は小 さいが、止血できないので、数時間後には血腫が広がり、脳実質を圧迫するまでになる。
2)クモ膜下出血 先天的に脳動脈瘤があり、これがなんらかのきっかけで破裂する。この時の動脈出血はジェ ット噴流様であり、硬膜や血管周囲の知覚神経が刺激されるため、バットで殴られたような激 しい頭痛が突然生じ、次第に意識消失する(出血量が少ないと意識消失までに至らない)。 出血すると脳脊髄液も赤く染まるので、脊髄穿刺で、血性髄液を認めれば本診断が確定し、 緊急外科手術が必要である。出血が持続すれば脳実質を圧迫する。
3)髄膜炎 感冒などを契機に細菌またはウィルスが髄膜(とくに脳軟膜)に侵入し、クモ膜下腔にある 脳脊髄液で増殖し、発熱、頭痛など感冒様症状を呈する。脳実質に感染が拡大すると意識消失 する。