肉離れとは、遠心性収縮による羽状筋の筋腱移行部損傷(筋腱の骨付着部断裂は筋断裂)を いう。遠心性収縮とは、筋自体は収縮しつつあるのに、体重負荷で筋線維は余儀なく伸張する 状態である
・羽状筋
随意筋は、平行筋と羽状筋に大別できる。平行筋は収縮スピードが速いという特徴がある。 可動範囲の大きい運動に適する。筋の収縮速度は長さに比例するので、平行筋は長い筋であ る。代表は上腕二頭筋。 羽状筋とは、腱膜に向かって筋線維が鳥の羽のように斜めに集合している筋をいう。収縮 スピードは平行筋に劣るが、見かけ上、細い筋であっても強い力を発揮できるという特徴が ある。羽状筋は、四肢の伸筋など(大腿四頭筋、大腿二頭筋、下腿三頭筋)の抗重力筋に多 い
・二関節筋
肉離れを起こす筋は、二関節筋(2つの関節にまたがって付着する筋)が多い。 二関節筋は、収縮・伸張の際に長さの変化が大きいからである。 原因 肉離れはあらゆるスポーツで起こる
・ハムストリング筋
最も高頻度に発症。とくに大腿二頭筋(寛骨~腓骨と脛骨を結ぶ。股関節と膝関節を越え る)に多発する。ダッシュ(陸上の短距離走、サッカー、ラグビー)で好発
・大腿四頭筋
大腿直筋が二関節筋で、股関節と膝関節を 越える(寛骨~脛骨粗面)。 ジャンプ(バレー、バスケット)で好発
・下腿三頭筋(内・外腓腹筋とヒラメ筋の総称)
腓腹筋が二関節筋で、膝関節と足関節を越える (大腿骨下部~足根骨)。長距離走(陸上の長距 離走、テニス)で好発
分類
Ⅰ型:出血 筋腱移行部に出血所見のみが認められる。数日~2週でスポーツが可能となる
Ⅱ型:腱膜損傷型 筋腱移行部において筋線維が腱から引 き離された状態。足をひきずって歩ける 程度。復帰に1~3カ月を要する
Ⅲ型:筋腱の骨付着部の断裂 腱断裂と診断されることが多い。 歩行困難。手術的治療を検討する
病態生理
スポーツで筋に力が加わっているとき、肉離れが起こる。その瞬間に、非常に強い痛みと衝 撃を自覚する。その時には筋繊維が裂けると同時に、周りの筋肉も萎縮し、傷口が拡大する。 数週間の安静を保っていると、損傷して欠落した部分に再生細胞が増殖して瘢痕組織が形成 される。瘢痕組織ができた段階で、直ちに激しい運動をすると、瘢痕組織部分または瘢痕組織 と正常筋組織の移行部(境目)が損傷することがある。 瘢痕組織は伸展も収縮もしないので、それ以外の筋線維部分で筋収縮の代償をせざるを得な いので運動能力は低下する。ただし最低6ヶ月間、適切な負荷でのトレーニング(ストレッチ、 軽い筋トレ)を続けることで、瘢痕組織は柔軟性は増し、他の筋線維も太さを増すので、肉離 れ以前と同様の運動機能にまで回復できるという。
治療
Ⅱ型肉離れでは、その状態のまま包帯などで固定されて2~3週間絶対安静と言われる。その 後、包帯がとれてからリハビリが始まり、普通に歩けるようになるのにさらに2~3週間かかる。 筋肉が萎縮したまま包帯で固定してしまうと、筋肉が短縮し、廃用性萎縮も加わるため、瘢 痕ができた後も、筋が伸張しづらいので痛みがでて、すぐには歩行できない
スポーツ外傷の応急処置RISE
禁忌はマッサージ、温熱療法、過度のストレッチ(これらは受傷1週間後から実施可能) 受傷後2~3日はRICE処置。炎症や内出血を、最小限にとどめる。自然治癒力による修復 は3日後から始まる
①Rest(休息):患部は動かさないで安静に保つ。痛みがなく身体部分が機能するまで
②Ice(氷冷):血管を収縮させ、出血を抑える。受傷後、間欠的に12~24時間実施
③Compression(圧迫):外から圧迫を加え、止血を促進。常に腫脹が消えるまで実施
④Elevation(高挙):受傷部位を心臓より高く挙げて、静脈血の循環や組織間液および リンパ液の循環を促進させる。受傷後24時間実施
針灸治療
Ⅰ型とⅡ型の肉離れに針灸は適応があり、Ⅲ型は不適応である。Ⅰ型は安静を保つことで早 期(数日~2週間)に治癒するので、問題となるのはⅡ型肉離れである。 受傷後直後は、これからできる瘢痕組織の狭小化である。受傷部周囲筋に刺針し、受傷ショ ックで短縮した筋の緊張緩和を図る。陥凹が触知できる場合、陥凹の両端にある 筋線維の断端を、左右それぞれの手でつまんで互いに接触させるように加圧。加圧は断続的に 5~6分間実施する。治療間隔は2~3日で、完治まで2~3回の治療(1~2週間)を要す る その処置後にRISE処置を2~3日行う。 受傷後2~3週間が経過し、歩行時にも痛みがなくなったら、回復期としてリハ訓練を始め るが、その時の針灸の目標は、筋の伸縮力の改善であって、障害筋全体に刺針施灸して、血 行促進を図る